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今回はなんと三味線!しかも「"4弦"三味線」という代物。依頼内容はこれにフレットを打ってほしい、という改造です。

この三味線、まず通常と違うところはボディトップとバックの「皮?」がプラスチックになっており、フィッシュマンのピックアップも付いてるんですね。持ち主の方はエレキやベースなどバンド形態の中で弾くため、より正確な和音・コードを出したい、というところからフレットを打つ事に。

この三味線はあくまでプロトタイプという事で指板の木材も継ぎ接ぎで塗装の状態もかなり荒いです。
三味線をまじまじと見た・触った事などはじめてなので「とある機構」にちょっと関心・・・


1の弦、一番太い弦には「さわり」という機構が付いていて、これが弦にかる~く触れる事によって「濁った音・ビィ~ン」というあの独特な音を出すようにできているらしいです。
ギターでもありますね。ギターの場合はブリッジ側に付いていますが「シタール」のような音を出すために同じ原理の機構が付いているものがあります。共鳴用の弦が複数本あるシタールギターなる物も存在します。

 


 

さて、とにもかくにも、通常のフレット交換・打ち(+フレットの溝切り)と同じなのでまずは指板面の修正から行います。
ボディとネックを外す方法を教えてもらったのでネックは取り外した状態で作業してます。

削っていくとどんどん赤い粉が・・・・これはパドゥーク材ですね。直接吸い込むとかなり刺激がきます。まるで本当にトウガラシのよう。指板材は継ぎ接ぎなのでいろんな色の粉が出てます。


直線が出ているかどうか定規を当てて入念にチェックします。


さらに平面がでているかどうかもチェック。この段階でわずかな隙間があるとフレットを打つ段階で「浮き・隙間」ができてしまい困った事になります。ギターの場合は(クラシックや一部を除いて)アール(曲面)がついているので、アールゲージを使い正確に曲面が出ているか確認し作業します。

「フレット交換をする」というと、単純にフレットを抜いてササッと指板面をペーパーがけしてすぐにフレットを打ってハイおしまい・・・・というふうに思っている方が多いですが(実際にそのようなリペアを行うお店さん、お話しもお客様から聞きます)、実際は「100%必ず」指板修正を行います。どんなにしっかりできている楽器でもわずかに木材の変化があるからです。
極論ですが「指板面をしっかりと直線・曲面出ししないフレット交換作業 → フレット浮きがある楽器」です。住宅・家もそうですがまず「土台=指板」がしっかりしていないとその上に建つ「柱=フレット」も綺麗には建ちません。
デコボコの土台の上に柱を建てて、あとから柱の長さを整える事を想像していただけると分かりやすいと思います。

 


 

指板面が綺麗に整ったらスケール計算から導き出したフレット位置を記していきます。ナット位置からステンレス定規を使い、千枚通しなどで正確に位置を記していくのですが許される誤差は0.2~0.3mmでしょう。0.5mmも狂っていたら音程のズレにつながります。
まあ、三味線の弦自体がナイロン製であまり安定しない(印象を受けたので)ので0.5~1.0mmずれていてもあからさまな音程のズレには影響しないと思いますが・・・位置を正確に、は基本の基本です。

フレット位置がすべて記せたら、次は中心線に対して直角になるよう三角定規を使い、同じく先の尖ったものでフレット溝位置を罫書いていきます。

罫書きはできたらいよいよフレット溝切りです。方法は図のように。

指板面に「直角が出ている当て木」をクランプで固定し、ノコの刃を当て木側面に押しつけるようにして溝を切っていきます。注意する点はノコ刃にも「厚み」がある事。下図右のように罫書いた位置に正確に当て木をセットしてもノコ刃の厚み分だけ位置がずれます。

軽くクランプで固定したらハンマー・トンカチなどを使い当て木をコンコンっと叩きながら微調整し、ノコ刃の分は目測で正確に中央になるようにします。

この一連の作業を24回(フレット分)繰り返すわけですが慣れないと刃がズレたりなかなか技がいる作業でもあります。

溝が切れたらあとはいつもどおりフレットを打ち、摺り合わせ、端の成形、等々をして完成です。

フレットを打ち変えた時はほぼ8~9割方はナット交換も必要です。今回はフレットが無いところにフレットを打ったので100%ナット交換が必要ですが(フレット分だけナット溝を高くしないとならない)、とりあえず弦を張って音が出せるようにオリジナルのナットに1.0ミリのシムをかまして底上げした状態で弱く仮接着、完成としました。

最終的な調整はこの三味線を持ち込んでいただいた時に一緒に工房へ来ていただいた平塚市の(有)紅屋さん(琴三味線店)でおこなっていただく事に。

 


 

そして完成した4弦三味線を弾くこの楽器のオーナーであるシャミセニストの"寂空/jack"こと○本さん。応援しますよ!
お隣は同じバンドのメンバーの尺八奏者、シャクハチニスト??

完成した三味線で1曲披露していただきました。普段ハードロックやヘビメタなどがかかっているココですが、目を閉じると「笹の葉、竹、日本家屋の畳間がでてきそうな」一瞬にして別世界が浮かびました^^。いいですね「和」!

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