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稀にみるひどい修理・改造をされてしまったケースをご紹介します。楽器を愛する皆様へのある意味 警鐘となれば幸いです。ここに出てくる修理工房さんを陥れようとか、悪意などは全くありません。実名なども一切公表いたしません(私の口からは)(お客様本人が周りにこの出来事を話すか否かは自由なので私は一切責任を持てません)。こういった被害が少しでも無くなるように、との願いをこめて・・・・

<今回の経緯>
*お客様/仮にSさんと呼びます
*とある修理工房/仮にA工房と呼びます

Sさん:(メールで問い合わせ)
「あるリペアショップにPUと配線の交換(その他もろもろ)を依頼したのですが、リアPUの音量が異常に小さい状態で送られてきました。ミニアンプと音叉による確認はされたそうですが、音量まではチェックしていなかったそうです。」たまたまZinギター工房さんとはすぐご近所(徒歩数分)なので見ていただけないかと。



私:(返信)ありがとうございます。いつでも大丈夫ですよ、いつお越しになりますか?



Sさん:「明日出社前にギターを預けていいですか?」



私:はい、分かりました。出社前との事なのでゆっくりギターの状態をお聞きする時間が無いと思います。そのリペアショップさんで具体的にどのような改造・修理を行ったのか詳細をお知らせ下さい。(以下、そのA工房さんで行った内容)
・リフィニッシュ
・ペグ交換(新品パーツ送付)
・ナット交換(新品パーツ送付)
・リアPU交換(新品パーツ送付)
・サーキット交換
 配線材
 アース線
 コンデンサ
 POT
 ジャック
・上記POTに合うノブへの交換
・キャビティ導電処理
*新品のスクワイヤ サイクロンをA工房さんに注文して(手元に届く前に)同時にALLリフィニッシュやパーツ交換などもお願いしたようです。



そして翌日の朝8時45分・・・Sさんが工房へお越しに。入口ごしでギターを預かり「午前中に状態をチェックをしてご連絡しますので」と伝え、Sさんはそのまま急ぎ足で仕事へと向かわれました。

 

まだこの時はケースを開けたら何が出てくるか知らずに、いつもと変わらず平和な時が流れていたのでありました・・・・

 

 


 

 

さて、ではさっそくケースを開けてギターの状態をチェックしましょうか。新品をすぐにリフィニッシュ、どんなギターが出てくるのかワクワク・・・・

 

 

 

一見するとなにも問題がなさそうなスクワイヤのサイクロン。「おお、これまた白黒で左右を、派手な仕様にしましたね」、手にとりパッと全体を見た段階で「????!!!なんだコリャ」と思いましたが、その話しは後半に。まずはSさんからのご相談内容である「リヤP.Uの音が非常に小さい」をチェックすべくピックガードを外して配線系統を調べます。

 


 

まずはアンプから音を出しチェック。たしかにリヤの音が出ない(小さいではなく出ない)。ピックガードを外して目視でじっくりと配線をながめます。これといって特に異常は見当たらない。テスターを使い導通を調べるとリヤ側にした時は全く導通なし。なるほど、という事はこれはどこかで電気の流れ(信号の流れ)がストップしている、ようはどこかで導通が遮断されているのだな~、と推測をたててみる。
*ちなみにリヤP.Uはダンカンの4芯線(そういえば種類は聞かなかったな~・・・JB?)

こういう時によくあるのがスイッチの不良で、接点不良があったりする。「接点」くっつくはずの端子同士がくっつかないので当然そこで電気の流れがストップし音が出ないという事になる。さっそくチェックしたがこのトグルSWは問題無し、正常。

 

よし、もっとよく見てみよう。P.Uの線は大丈夫か?「ん?赤色の線の被膜が切れている。これは作業時にミスったんだな」。もしかしてこの部分がアース(裸線・アミ線)と接触して音が出ないのか?と思ったが、まてよ?であればハムバッカーの片側コイル、ようはシングルP.Uとして音は出るはずだ。(このへんはP.Uに関する知識がある人しか分からないので適当に読み飛ばして下さいね)

よし、そんじゃまあいったんトグルSWへ配線されているP.Uの線を全て外してチェックしてみよう。という事で↑↑右画像のように。

 

さあ、ここからが本番。驚愕の事実が!
←テスターでチェックしたところ「導通なし」
なぜ全く導通がない?新品P.Uでまさか早くも「コイル切れ??」(稀にありますが・・・w)もしくはハンダ箇所での接触不良か?

 

念のため「赤白」の線もチェック、と思い熱収縮チューブを外して中を確認してみると・・・・・

一瞬頭の中が「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

次に襲ってきたのは驚きを通り越して「笑い」

ご丁寧に熱収縮チューブでカバーしているにもかかわらず「結線していない」とは。笑いました、声を出して笑いました!w

こんな事をする「修理工房」が世の中にはあるのだと。あきれてものが言えないとはこの事。この時点で確信しました。これはP.Uや電気的な知識が乏しい・無い人間が作業したのだな、と。

 

 

ちゃんとダンカンのカタログにも書いてあるじゃないですか「赤と白を結線しろ」って。
並行輸入品にも簡単な説明書は同梱されているはず・・・

 

まあ、といっても私たちリペアマンはほとんどの場合、あらためて説明書なんてものは見ないです。ごくたまに、あまり交換した事がないブランドのP.Uの場合やバルトリーニ等々のプリ回路など、を参考程度に見る事があるかな~ってぐらいですね。そもそも説明書が付いているP.U自体が少ない。

 


 

←さ、気を取り直して「赤と白の線」を結線・ハンダ付。


↑上の画像は「緑とアミ線」を切り外したP.U線の被膜を使いカバーしているところ。「アミ線=マイナス」ですから万一ホット(プラス)と接触すれば音が出なくなりますから。

 


↑結線した「赤白」は熱収縮チューブでこのようにしてもOK。やり方は自由。

ハイ。これでひとまず完成。と、思ったら・・・・思わぬ落とし穴が!

 

皆さんは「位相」ってご存知ですか?P.Uには位相というものがあり「正位相」「逆位相」があります。一つの楽器に複数のP.U(つまり2P.U仕様/レスポールとか3P.U仕様/ストラトとか)が搭載されている場合、基本的に「正か逆」どちらかの位相に統一しなければなりません。1P.U仕様であればどちらの位相でもかまわない。

仮に「リヤが正位相」で「フロントが逆位相」だったとします。そうすると(レスポールに例えると)リヤかフロントどちらかで鳴らすぶんには問題ありません。ところがリヤ&フロントのミックス音(トグルSWの真ん中ポジション)で鳴らした時「プーン」といったような鼻が詰まったといいますか、変な、音量が小さいサウンドが出ます。これがいわゆるフェイズサウンドと呼ばれる状態です。
*稀にストラト等では意図的にセンターP.Uを逆位相にし(他2つのP.Uとは位相を反対にして)ハーフトーン時だけフェイズサウンドが出るようにしている物も見かけます。

で、このサイクロンの場合、フロントP.Uの位相をチェックしてみたらなんと「逆位相」。リヤのダンカンP.Uは説明書どおりに配線すれば「正位相」なのでどちらかを反対の位相にしなければならない(*下記注意事項)。
仮にはじめから
問題なく音が出ていたとしてもフェイズサウンドだった、という事ですね・・・。

とりあえず今回はフロントP.Uの位相を「正位相」にしました。プラスとマイナスを反対にするだけの事ですが、知識が無いとノイズが増えたりする事にもなり注意が必要です。例えば、ポールピースとP.Uコイルに導通があったりとか、ノイズシールドのために薄い銅板テープが巻かれていてそれがどちらかの線と一緒に結線されている場合など。とくにテレキャスのP.Uなどは注意が必要。

 

ハイ。これで本当に完成。

 

*テスターによるP.Uの位相の調べ方は文章にすると面倒なのでここでは触れません。興味がある方はネットで検索するか当工房へ遊びにいらしてくださればお教えいたします。
*位相はメーカー指定の配線をした時に、Gibsonのハムバッカー等と同位相となるものを「正」、逆位相となるものを「逆」としています。

 

*2016年追記
「ピックアップの位相チェック方法〜位相の変え方」(修理記事No.054)をアップしました。動画で位相の調べ方などを解説。

 


 

さてさて、音が出なかった・非常に小さかった原因は単なる結線し忘れ・・・・もとい「単なる結線していない」でした。しかもオマケ付き、A工房さんでは位相のチェックもしていなかった、というよりは「位相」というものを理解していない・知らなかったという事です。

とりあえずこれで音は正常に出るようになりましたが、もう少し詳しく見てみましょう。今回A工房さんで行った項目の中には「キャビティ導電処理」というものがありました。


↑導電塗料をキャビティ内に塗った場合に気をつけなければいけない事は「導電塗料が塗られている所=マイナス」である、という事。キャビティに余裕があればいいのですが、上の画像のようにトグルSWの端子が内壁ギリギリだったりすると、万一トグルSWを留めているネジ・ナットが緩んで回転した時にもしかしたら端子が「導電塗料」と接触するかもしれません。するとプラスとマイナスがショートするのですから当然音が出なくなります。

 


そこで、導電塗料を塗った場合、接触する恐れのある箇所にはしっかりと「絶縁性能があるテープ」を貼り、万一の時の予防策をとっておく事が大切です。ジャックとトグルSWの部分は当方でテーピングしておきました。


もう一つ気になったのは上の画像↑↑矢印部分の「通路」がかなりえぐられている事。おそらく配線する際にきつめだった為、配線材の取り回しをスムーズにするためにこうしたザグリをしたのだと推測します。ただしかなり大幅に削られておりここまでする必要があったのか不明。もしかしたら製造段階でこうなっていた可能性も否定できないのでなんとも言えません。

 


 

よく雑誌などで「誰でもカンタンにできるP.U交換講座!!」などの特集がありますが、その手の記事で「位相」の事について詳しく説明されているものはほとんど見た記憶がありません。


「逆位相」なんてそんな滅多にないんでしょ~?とか言う方もいるかもしれない、ところがどっこい逆位相ってけっこうあるんですよ。いくつかあげていくとアイバニーズ、EMG、ヴァンザント、ジャクソンやビルローレンスも。ただし同じビルローレンスのP.Uだからといって全てが逆位相なわけではなく正位相も存在します。このへんはアイバニーズ等々どのブランドも同じ。EMGは逆位相で統一されているかな??

 

 

とまあ、P.U交換する場合には「必ず!位相チェックが必要です!」と声を大にして言いたい。位相の事がよく分からない、正か逆かどちらか分かってもそれを反対の位相にする方法がよく分からない。という人はそもそもP.U交換はしないほうがいいでしょう。

よくあるのは大手の楽器屋さんでP.U交換してもらったら(例の)「フェイズサウンド」だった、というケース。変な音ですが音は出てしまうので本人も「センターポジションにするとなんか変な音だな~」と思うもののまさか位相が違うなんて事はつゆ知らず、使い続けている場合が多いです。

 

大きな楽器屋さんでは、多少の調整やピックアップ交換程度なら店内でできますよ、というところも多い。ちゃんと位相に対しての知識がある人が作業すれば問題ないのですがたいていはアルバイトなど若い子、手先が器用な店員がやっている事でしょう。説明書を見ながら奮闘して「やったあ!ちゃんと音が出た!」となります(ああ~、20~22才ごろは自分もそうだったなあ^^)。勿論、交換作業か完了した時点で全てのポジションで正常に音が出るか確認するのは当たり前ですが、位相の事を知らない人は「なんだかセンターポジションにすると音が小さく、変な音になるけど・・・・・ま、気のせいかな、これでOK」となってしまいます。
今まで何十回「コレ位相が違いますね、今まで気づきませんでしたか?」とお客様へ言った事か・・・・

 

次のページでは冒頭でちょっとお話しした「全体を見た段階で「????!!!なんだコリャ」と思いましたが」の真相をご紹介。まだまだこのギター、ここのA工房さんで行われた作業はすごいですよ~。

 

*2016年追記
「ピックアップの位相チェック方法〜位相の変え方」(修理記事No.054)をアップしました。動画で位相の調べ方などを解説。

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