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P.Uだけではなかった、このギターのあまりにお粗末な完成度。

このギターを見てすぐに「なんだコレ?!」と気づいたのは「塗装の完成度・仕上がり」がありえないほどお粗末・汚いこと。以下、大きな画像を貼っていきますが、このギターは新品を「A工房さんで全塗装されて」Sさんの手元に届いた物、という事を念頭にいれてご覧ください。


分かりますか?このキズ痕。この手のスリキズがほぼ全体にわたり残っています。


↑同じ角度で2枚撮ってみました↓


目の肥えた人でなくても、プロでなくても、仕上がりのお粗末さは一目瞭然。事実、Sさんはこのギターが届き開封した瞬間「なんだよコレ!」とガックリしたと言ってました。

 

なぜこのようなスリキズがあるのか?塗装工程において最後のクリアコート(トップコート)を吹いた後、数週間乾燥させます。その後に「水研ぎ」と言われる作業をし、表面の「塗料吹きっぱなしの状態(多少ブツブツ・滑らかではない)」を凹凸が無くなるまで綺麗に整えます。それから「バフィング」というツヤだし作業を行うとテカテカ・ツルツルのあの新品のような輝きが出ます。

 

このA工房さんの場合、水研ぎで付いた「ペーパー痕」がまだ完全に残っている状態で「完成」としてしまったようです。ただしよく観察するとかなり粗めのペーパー痕と思わしきスリキズが見られるので、たとえこのギターを当方でバフィングし直してもこのスリキズは消し取る事はできないでしょう。

バフィング作業のあまさ、それ以前に水研ぎ作業のあまさ・いい加減さも影響しています。


ヒール部分です。分かりやすいようにフォトショでコントラスト等をいじっていますがご覧のとおり。下地が透けて見えています。白と黒の「境目」も汚いですね。ネックの塗装、ナット付近にもムラがありました。


ネックと指板の境目も見てみましょう。矢印の部分は白色が露出しています。まず白色で全体を塗り、その後に白部分をマスキングしてから黒を塗ったものと思われますが、こういった部分は段階にわけて数回マスキングするなどの工夫でこのような白色が露出しないように仕上げる事が可能です。


↑お次はコチラ。指板面をよく見てみると赤丸で囲んだ部分、点々としたツブツブが付着しているのが分かると思います。これ何かと言うと「塗料が吹きこんだ痕」です。


なぜこのようなツブツブが吹き込むのかというと「マスキングのいい加減さ」が影響します。↑上の左画像のようにいい加減にマスキングすると隙間から塗料が吹き込み指板面に付着してしまうのです。
「たかがマスキング、されどマスキング」マスキングを笑うものはマスキングに泣く、です。

 


 

ちょっと休憩。

皆さんお正月はいかがお過ごしですか?まったりしてますか?

昨年1年間をふりかえるとイロイロありました。10月には新しい家族が増え(といっても猫)いまは夫婦揃って猫に夢中です。肉球にいたずら書きなどしてみたり・・・・

 


 

塗装の完成度に関してはこんなところでした。私もまだ若い頃はマスキングのあまさで「指板面に塗料が吹き込み」という失敗を何度か経験しましたが、そのまま放置するのではなく、当然しっかりと付着した塗料は除去します。

続いて、今度はこのギターのプレイアビリティや各パーツ類のセッティングなどについて触れていきましょう。これまたありえないほどお粗末なセッティングです。


まずはナットの弦溝の高さです。A工房さんで行われた項目には「ナット交換」も含まれていました。

上画像矢印の部分、通常ナットの弦溝高さを測るにはこうして2フレット目を押さえて「1フレットと弦の隙間」をチェックします。


普段、私の場合はこの部分の寸法(隙間)を測る事はしませんが、試しにシックネスゲージで計測すると1弦約0.4mm・6弦約0.7mmでした。

この数値、普段から0.2ミリとか0.5ミリとか何かしら感覚として普段から経験している方でないと実際にどのくらい隙間があるのか想像できないかもしれません。分かりやすいように言いますと、これはボトルネック奏法を意識して弦溝を設定したの?と言えるくらい高い(笑)当然ここまで高いと1~2フレット、ローポジションを弾くと音程がシャープしまくり、非常に押さえづらい。
ナット全体のアップ画像は↓↓

 

ナットの弦溝高さについてよく間違った考えをお持ちの方がいらっしゃいます。弦高調整の際に「ナット側の高さを上げたらどう?」と相談される方がいますがこれは間違い。基本的にナットの弦溝高さは「1フレットの高さに対して決まる」が正解で、弦高調整に関連して上げ下げするものではありません。


ジャンボフレットだったらそのフレット高さに合ったナット溝高さになります。1フレットの高さに対して極わずかに高いのが理想的ですね。勿論、弾き方によっても弦溝高さは微調整します。強く弾く人はそれだけ「開放で弾いた時に1フレットに弦が当たる確率が高くなるので」弦溝は若干高めに設定したり、弱く弾く人はその逆。弦高が高めが好みの人は若干低く等々。

 


 

その他、各部のセッティングを見ていきます。。。。。。

上左画像はオクターブですが一見すると綺麗に並んでいるように見えます、が、なぜ1弦と4弦が同じ位置にある? 上右画像はブリッジをボディに固定するネジですが締めすぎ。アームダウンできない・ブリッジが傾かないような状態まで締めてありました。

 


そしてオマケ。裏のスプリングは締めすぎ。

A工房さんで新品ギターをヒドイ状態にされてきた今回の件。当然ながらSさん本人はもうA工房さんの事は完全に信用できないとして、当方でナット交換も含め全体的なセットアップを行う事になりました。塗装に関してはあきらめ・・・・

以下は当方でナット交換作業などを行った画像。

ナットを取り外してみると予想どおり接着剤がタップリ。

接着剤を綺麗に除去して底辺をチェックしてみると隙間が・・・・。これは新品時からこうなっていたとも考えられます。取り外したナット(A工房さんが成形して取り付けたナット)をあらためてはめ込んでみると大きさが合わずガタガタ動く状態。つまりナットの成形段階でナットを削りすぎたか、成形前のナットの大きさがすでにこのギターのナット寸法より小さかったか、です。

 

ナット材は牛骨無漂白をSさんが用意してA工房さんに「これでナット交換してほしい」と送ったらしいのですが、もしお客様からの持込材で寸法が合わなかったら(小さくて使用できなかったら)その旨をしっかり伝え、十分な寸法の材を使いナット交換する事が当たり前です。寸法が小さいからといって「接着剤で充填すればいいや」なんて事は決してやってはいけません。


↑これは底辺の隙間を無くすべく修正して綺麗になったところ。            ↑右は完成した画像


 

ナットも交換し、セッティングも終了。完成。

さて、今回のケース、お楽しみいただけたでしょうか。
塗装の完成度以外は専門的な話なのであまりピンとこなかったかもしれませんけど。。。

 

 

「なんだよ、Zinギター工房さんってのは他の工房さんの仕上がりに対して、あれやこれやほじくり出しては悪口や批判を言うところだったのかよ」
もしかしたらこんな風に思った方もいるのでは?

あえて、今回のケースをホームページにアップしたのは「誰がどうみても、とても人様からお金をいただいてプロが行う仕事ではない」100%断言できる稀にみるヒドイ仕上がりだったからです。多少、塗装の仕上がりが「う~ん、チョットこの部分は~」なんていう程度でしたら、時々みかけますし、私自身も時にはチェックミスでバフィングがあまかったりしたまま完成としてお客様へ返却した事もあるでしょう。
年に何度かギター製作の学校に通う学生さんが「工房見学」にいらっしゃる事があります。自分の製作した作品を持ってくる事もありますが、学生さんが製作したもののほうがはるかに綺麗です。このサイクロンよりね。

 

これが個人の方・素人の方がここまでご自身で仕上げてきたのならなんの問題もありませんよね。むしろよくここまで塗装しましたね、と健闘を称えたいところです。ですが、商売として、プロとして看板を掲げてやっているのであれば話しは別。

 

私は今回の件でA工房さんと電話でお話ししましたが、初めは「なんだコイツは、この忙しい時期に」という感じでした。そこでおもむろに「P.Uの位相の事は当然ご存知ですよね?」と言ってみてもハッキリしない返答で話しをそらす。だんだんと言われている状況が理解できたとたん話しの途中から急に「この時期だけアルバイトを雇っている」という話しが出て、しまいにはこのギター全ての作業をアルバイト君がやった事、と言ってました。本当にそうなの?
100歩譲ってアルバイト君がやった事だから、という話しを信じたとしても、それで済む話しじゃありませんよね。

 

冒頭にも書きましたが、私はこのA工房さんという修理工房の名前は一切公表するつもりはありません。たとえこんなありえない仕上がりでも、その人はその人なりに生活がありご商売をされているわけで、それを中傷や批判、悪評をたてて陥れてやろうなどという愚かな考えは一切ありませんから。
*お客様であるSさん本人がA工房さんの名前を周囲に漏らす事は、私の責任・知る範囲ではありません。

 

もしA工房さんがこの記事を見て、何か思うところがあれば真摯に受け止め、ご自身で思っている「今の自分の技術・知識」が本当にプロとして通用するのか否か、一度、胸に手を当てて思い返してみてください。そして今後このようなヒドイ仕上がりにならないよう技術を勉強するなりギター製作の学校へ通うなり基礎を勉強し直してほしいと思います。Sさんのような被害者が少しでも減るように。

 

当ホームページをご覧いただいている多くのお客様には「世の中にはこんな完成度でも"良し"として、堂々と看板を掲げ、お客様からお金をいただき商売にしている楽器修理工房がありますよ」という事を少しでも知っていただければ幸いです。自分の愛機を預けるのですから修理を依頼するお店・工房の選択は慎重に検討したうえで決定してください。初めて依頼するお店・工房などへは全体的なセットアップだけとか、まずは比較的簡単な修理・調整をお願いしてみるのがいいかもしれませんね。

 

それでは、本年もよろしくお願い申し上げます

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